四月のある晴れた日に100%のコーヒーに出会うことについて|はらいそ通信

Galleryはらいそ識名園をオープンして以来、本店の一部屋をデザイン事務所として作業する夫と過ごす時間が確実に減っている。以前は打ち合わせもできる限り二人で参加することが多かった案件も、だんだんとお互いの仕事の分野が異なる日常になり、一人で参加することも増えてきた。ランチタイムも別々に過ごすことが増えて、週に1回、2回一緒に食べることができればいい方だ。

「ちょっと待て」

という声が聞こえなくもない。大半の共働きの夫婦は一緒にランチをするなんて稀なのかもしれない。ただ、私たちは10年前に沖縄に移住してからというものの、トイレ、お風呂、出張以外ほとんど一緒に過ごす日常だった。一緒に過ごす時間が減るということは、つまり相手の知らない行動が増えるということ。

昔から夫は謎が多い。その謎を解明したいという気持ちになったことはあまりないが、ふとした会話の中からその謎が姿を表すとき、わたしはひとり心の中でにやける。それが相手の知らない行動を知る唯一の楽しみなのだ。

2年ほど前から、夫は小麦粉を取ることを極力避けるようになり、気がつけば砂糖・コーヒーも取らない日々が続いた。わりとストイックに絶っていたが、それが最近、どうやらコーヒーは解禁されたらしい。

その理由は今も謎に包まれたまま。

かくいう私も、大学生時代に一生分のコーヒーを飲んでしまったといっても過言ではないくらいコーヒーを飲んでいたが、出産してからパタリとコーヒーを飲まなくなった。香ばしい芳醇なコーヒーの香りは心の底から楽しめるが、実際に口にふくむと動悸がしたり、「美味しい」という脳の喜びが得られないまま20年近く経つ。

サードウェーブがやって来て、かつて暮らしていた街がおしゃれに様変わりしても、沖縄にコーヒームーブメントが到来しても、イマイチ乗りきれないまま今日まで過ごして来た。

4月のある晴れた日に、久しぶりに二人でランチに出かける機会があって、山形県出身の店主が営むお気に入りの蕎麦屋にいって、いつも頼むくるみそばを嗜んだ。

ここに来るとついついくるみそばを頼んでしまう。他にも食べたくなる衝動に駆られるのだが、さんざん悩んだあげく、くるみそばに落ち着く。特製くるみだれは、濃厚なくるみの風味がそばつゆに合わさりそれだけでも十分に美味しいのだが、温泉卵でさらにコクを加えて食べるのが私たちのささやかな贅沢。私たちは、それくらいくるみそばに首ったけなのだ。

そして、寡黙な店主がその日に限って地元から取り寄せた山菜の漬物をサービスで出してくれた。

なんてラッキーな日なんだ。

その日は、沖縄の透き通る空の青さが、夏の始まりを伝えてくれるまさにそんな日だった。

そばを食べた後、夫がコーヒーを買って帰ろうと思うけどどうする?と聞いてくるので、久しぶりに飲んでみようとお任せでアイスコーヒーを頼んだ。

そのコーヒースタンドはテイクアウト専門店で、お気に入りの蕎麦屋から車で2分程度のところにある。駐車場に車を止めて、夫がコーヒーを注文して、支払いを済ませて運転席に戻ってきた。

ほどなくすると、店員と思しき若い男性がコーヒーを持ってウィンドウ越しに渡してくれた。

蓋に書かれていたのは

「がじゅまるブレンド」

一口飲んでみると、あれ?これはいったいなんだ?という混乱に似た気持ちが湧いてくる。

今まで、どんなに美味しいと言われるコーヒーを飲んでも、私にとって「コーヒー」は「コーヒー」に違いなかった。

でも、このがじゅまるブレンドは、「おいしい」が先に来て、そこから「コーヒー」という事実にたどり着かないまま迷子になったような気分にさせられるのだ。

そんな混乱に似た私の反応を夫はにやけながら楽しんでいる。

食後の飲み物を頼む際は、いつだってコーヒーか紅茶だったら紅茶一択だったし、その中にアールグレイがあれば殊更アールグレイを好んで頼んでいた私が夫に伝えたのは

「がじゅまるブレンドかアールグレイか尋ねられたら、がじゅまるブレンドを選ぶ」

「がじゅまるブレンドはコーヒーじゃなく、がじゅまるブレンドという飲み物で確立されているんじゃないか」

などと訳のわからないことを言っていた。それくらい完璧なコーヒーに出会えたことは、私の人生の中でも驚きの瞬間だった。

以来、お気に入りの蕎麦屋の後にそのコーヒースタンドに立ち寄ることが私の完璧な幸せルーティンとなった。それが四月のからりと晴れたような空であったなら、100%完璧な昼下がりになることは間違いないだろう。

四月のある晴れた日に、美味しい蕎麦と奇跡のがじゅまるブレンドに出会えることの幸せについて、どうしても伝えたくなるほどに、私にとって衝撃的な事件だったのです。

夫の謎めいた行動の中にある、「美味しいコーヒーをたどる」行為にありがとうをこめて。

コーヒーに似合う器を探すなら

素敵なコーヒーに出会えたら、ちょっと背伸びをして大人なコーヒータイムを楽しみたいもの。今回お薦めするのは、沖縄県産の木を使って、拭き漆で仕上げたコーヒーメジャースプーンとコーヒーマグ。

木のぬくもりが、コーヒーの芳醇な香りと旨味を引き立ててくれます。

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アイスでいただくなら、琉球ガラスでたっぷりと